はじめに
ステンレススチールの鋼種判別について、エネルギ分散型のコンパクトな可搬型蛍光X 線分析装置OURSTEX100F をもちいての検証結果を報告します。
装置の概要並びに実験
装置は高圧発生部、分光ヘッド部、計数回路部、液晶タッチパネルを用いた CPU システム並びに試料室部からなります。X 線源は省エネ型の空冷式小型X線管です。分光ヘッド部は二重湾曲トロイダル型のLiF とキャピラリからなり、それぞれの励起源をCPU コントロールで交換出来る構造になっています。分光ヘッド部と試料室は4 μm 厚みの高分子膜の隔壁で仕切り、ヘッド部内は数 Pa 程度の真空に保持され、試料は空気中に置かれます。これにより、空気による散乱線が減少し、測定も簡便に行うことが出来ます。X 線検出器には液体窒素不要の高分解能でかつ、高計数率可能なシリコンドリフトディテクタ(SDD)を用いております。この検出器素子の冷却には2 段のペルチェ素子を用い、- 20±0.5℃ の冷却温度にコントロールされています。計数回路部はコンパクトなデジタルシグナルプロセッサ( D S P )を用いております。CPU 部には液晶タッチパネルを用い、設置スぺースがいらず、簡単に操作ができます。 トロイダル型モノクロメータで1 次X 線Pd-Kα 線を単色化し、集光させるために、遷移金属、Mo やPb 等の分析に対し、励起効率が良く、かつ、P/B 比の良い分析が出来ます。
- X 線管: 空冷式Pd ターゲット
- kV-mA: 40-1( Pd-Kα 線単色ビーム)
- 測定時間: 100sec
- 検出器:SDD ( 素子冷却… -20℃ 、Mn-Kα 線エネルギ分解能… 160eV 以下)
結果および考察
鋼種判別の場合、試料測定面が常に平面であるとは限らないため、試料からの1 次X 線の散乱X 線との比を取ることでその補正を行いました。 インゴット標準試料の平坦な表面の分析をまず行いました。測定スペクトルにはCr-Kα 線、Ni-Kα 線及びMo-Kα 線を用いました。1-1 にそれぞれのスペクトル線の検量線と散乱X 線との比の検量線を示します。両者の検量線でほぼ同等の結果が得られました。また、試料の円筒面( 側面、直径約40mmφ ) の測定結果を1-2 に示しますが、平坦面とほぼ同等の結果が得られました。 次に、距離特性についてCr-Kα 線とMo-Kα 線を用いて調査した結果を1-3 に示します。基準位置から1、2、3mm と離した時の散乱X 線との強度比で、 X 線分析値はCr で最大1.41wt%、Mo で0.06wt%の誤差で得られました。なお、 Cr とMo の検出下限値はそれぞれ0.0063wt%、0.0009wt%です。
まとめ
以上の結果から、OURSTEX100F を用いて散乱X 線との強度比を取ることで、鋼種判別が十分な精度で得られることが分かりました。これはX 線管からの1次X 線をトロイダル型分光器で、試料面上で2~3mmφ に絞っている効果のためだと思われます。このコンパクトな装置は今後簡便な鋼種判別など異材判別装置として有効に活用されていくものと期待されます。
測定結果1
測定結果2
測定結果2
推奨装置
エネルギー分散型蛍光X線分析装置「OURSTEX100FA」